象使いのなかの象

象使いは象にのってるけどその中にも象がいる

クラフトビール屋のピンチはtwitterで出会いになった

ゴールデンウィークの最終日の5月6日、5月にひらいた西荻窪のクラフトビール(地ビール)屋 Project で、遊びにきてくれた友達とビールをまっていた。5月5日にメインにしている志賀高原ビールのDPAという美味しいビールを売り切ってしまって、クラフトビール屋なのにクラフトビールを切らしていたのだ。

17時を回った頃、外で台車の気配がした。「やった、これでこのビールを友達にだせる!」と思って、にぎやかな通りの喧噪を遮るお店の扉を開いた。最近顔なじみになってきたゆうぱっくの配達員さんの前の台車を見た瞬間、希望はあせりに豹変した。

「やばい、この樽おもったよりもでかい」

クラフトビールは、品質管理の為に樽ごと冷蔵庫に入れて管理している。そして、6席しかなく、通りの合間にひっそりとこっそりとある"Project"の狭い冷蔵庫にこれは入るだろうか。

20Lの樽は、あたりまえだがずしりと重く、普段の樽より2倍くらい重かった。大きくて通路をとおるのもぎりぎりだった。

こまりながら作業している様子をみて友達が声をかけてくれる。

「ありがとう、でもこれ、入れないし1人でしか出来ないんだ。ちょっとゆっくりしていてね」

樽をまずつないで、ビールを友達にだした。

そして、扉を大きくあけて、樽を入れる。なんとか入った。入ったが、扉はしまらない。はみ出ている。10cmほど扉が開いたままになる状況。このままずっと放置しておくことなどできない。ピンチである。

冷蔵庫をずっと開けっ放しにしておくわけにはいかないし、もちろん要冷蔵のクラフトビールの樽を冷蔵庫の外に出しておくことは出来ない。ピンチだ。

「10Lの樽は3日で出してほしいけどここだと難しいと思うのでお勧めしません」

お店を開く準備をしているときに、とあるビール会社の人に言われたことを思い出した。6席のお店ではビールは普通そんなにでない。だからビールの回転の遅いお店では瓶ビールをだすのだ。でも、うちは地ビール屋だしこのビール会社さんの予想は今のところはずれていた。2日に10L以上はお出しすることができていた。

しかし今回は更にその倍の20Lだ。1日で10L売り切れたこともまだない。

「これ全部飲んでもらおう」

決めた。

twitterで過去にみた商品を仕入れすぎてしまったお店のtweetを思い出した。大好きな街の人通りを思い出した。開業まもないお店にビールを送ってくれているブルワーさんを思い出した。

これは飲んでもらわないといけないビールだ。初めて飲んだときのあの喜び、美味しいビールをだめにすることなんてできない。

どうしてもだめだったらただで配ってでも飲んでもらおう。出し切ることは出来るはずだ。

twitterへの投稿

RTしてもらえるのではないか。ビールが好きな人にとどくのではないか。祈るような気持ちでつぶやいた。

グラスがまわらなくなるはず

大勢に飲んでもらうには、小さなお店のグラスと洗い場では回らなくなる。最悪ただで配るにしても、グラスを渡して配るのは現実的ではない。使い捨てのカップが必要だ。

友達にお店の中を頼んで扉をしめて西友に向かった。

そしてその間にもtwitterではRTが始まっていた。

コメントをつけてくれた友人。どうもありがとう!(でもなんでうちじゃなくて新宿で飲み始めたかについては今度ゆっくりと話をきかないといけない!)

西友をあるきながらカップを探し、カップだけをバカみたいに買った。袋をもっていくのをわすれたので、万引きと思われないようにレシートといっしょに重ねあげたカップを持った。

お店に帰ったらお客さんがいた

ピンチを知らなかったぼくは、その日こんなことをつぶやいていたのだけれど。

お店に帰って扉をあけると、人が一人増えていた。

「え、お客さん???」

どんどんお客さんが来た

2名様がきて、1名様がきて、お店はあっという間にうまっていった。

17時になったら樽がくるから、ちょっとお店にいてもらってその間に仕入れをしようとおもっていたのだが、状況が一変し食材の代わりにカップを買ってきたのでお店の冷蔵庫の在庫は少ないままだった。

「これじゃお金はとれないな」

正直な話、あり得ないほど値段を下げてしまったビールを出しているので、食べ物で少し粗利がでたらなーなどという思いもないではなかったが、twitterで困ってるお店をみて助けようとしてくれた人から、ちゃんとしたものを出さずにお金をとるなんてありえない。

乾きものをただで出すことにした。

そして冷蔵庫にあるものをちまちま使って、その場で考えた食べ物を出していった。

お店の中は親切な人であふれ、あけないといけないからしょうがないよね、などといって自分もビールを飲み始めた。自分のお会計だけは定価で。

ピンチはお客様のおかげで楽しい時間になっていった。初めてあったお客様同士も会話をしだし、小さなお店ならではの空気ができてきた。

お花とお花みたいな女の子とバジルシフォンが届いた

ほんっと出せるメニューがなくなってきたなーと思った頃、また1人の来客があった。

枝屋さんでかってきたんだよ」

と、いいながらお花をくれた彼女は、自分でつくったバジルとチーズとブラックペッパーにオリーブオイルのシフォンケーキをもってきてくれた。

軽くあたためて、トマトを焼き、肉を焼き、バジルをのせた料理を出して、うちとけてきたお客様にお出しした。数の関係で完成品は味見ができなかったけれど、このシフォンケーキ、美味しいから大丈夫だろうと見切り発車をした。まあきっと美味しかったはず。

そして彼女は忙しい状況をみて、レジをうって、ビールをつぎ、おしぼりをわたしてくれた。友達もよんできてくれた。

どんな妖精だよ!っておもった。

とまらないRT

その間もRTはとまらず、100を超え、200に近づいていった。

なぜか新宿で飲んでいる友人

友人がRTしたから来てくれたお客様

どうしてこうなった。

そしてお客様

ついになくなった!20L完売!

たくさんの「ごちそうさま」をいただきました。本当にうれしいです。いまみてもちょっとうるっとする。ありがとうありがとう。

[https://twitter.com/fiji62/status/463686788792336384:embed#楽しかった(^o^)/ http://t.co/HMhls7pDeY]

本当にどうもありがとう

twitterに投げた悲鳴の善意の皆様のRTは、沿線の方々にとどき、楽しい時間をつくりだし、20Lのビールを空にしました。

RTしてくれた人の全リストを見る方法がわからなくて、個別にメンションしていくことが出来ません。もしやり方をご存知の方がいらっしゃいましたらおしえてください。

RTしてくださった一人一人の皆様への感謝、ご来店いただいた皆様にいただいた時間の喜びと感謝、ささえてくれた友人たちへの感謝、文字にしきれません。

いつかなにか返していくことは出来るのだろうか。自分にできることはなにか。そんな悩みと、そして感動をかかえながら、すばらしい出会いにただただ感謝して締めたいとおもいます。

「twitterの話見たよ」と言っていただいた方には、1杯だけですが、今回の値段と同じ400円でクラフトビールをお出しします。

どうもありがとうございました。夜1人で泣きました。 ありがとうありがとうありがとう。これを書いている今でも胸が熱くなります。